洋楽の歌詞と語学学習

『泉山真奈美の訳詞講座』(ISBN:4887243464)DHC刊。

訳詞家/翻訳業に携わる人,
目指している人に
役立つ情報が隅から隅まで
ギッシリ詰まった
超ヘヴィー級の語学書が誕生!!

という帯の文句に激しく惹かれるものがあり(とくに最後の行),店頭で見かけて購入。今日の朝日新聞書評欄にも登場していた。

泉山さんといえば筋金入りの黒人音楽フリーク,『ブラック・ミュージック・レヴュー』誌での鋭いヒップホップ批評で初めて知って,その仕事ぶりにはいつも敬意を持って接している。今の仕事につくまでの経緯や,仕事の手順まで公開されていて,そのへんは売り文句の通りではあるが,読者対象をブラック・ミュージック好きな人に限定してないのがちょっと意外。内容的にはだれでも楽しめるし役に立つ。
この手の裏話付き指南本は,辞書にない表現の意味を知るのにいかに苦労しているかという話に傾きがちで,この本もそういう面がけっこうあるけど,実作業に取りかかる前に必ず踏む手続きとして示した p.25 の「訳詞の作業行程」の周到さなどを読むと,仕事に対して真摯な態度で臨むことが大切だということを改めて反省させられる。新語やスラングを追い掛ける態度も,非常にストイック。
あえて難点を挙げるとすれば,誤訳を免れるための策として p.190 で「正しい英文法の知識が不可欠」として,自分がいかに真面目に英文法を勉強してきたかを説いているが,英文法の知識が訳詞の実作業においてどのように役に立ったかという具体例があまり示されていないので,この本を読んでも文法の大切さは実感しにくいこと。

この本は,英語力を生かした仕事がしたいという意欲がある人に向けた本だということがかなり明確だが,同じように洋楽の歌詞を材料にしながら,そこまで志向がはっきりしていない学習者(おもに高校生)に向けたお勉強の本も出ている。『大誤訳 ヒット曲は泣いている』(西山保,光文社,ISBN:4334933149)。これも文法と下調べが大切だということを説いているのだが,既存の訳の誤りをあげつらいながらも,改善案として示したのが泉山さんの本では厳しく排されている直訳調なのは大きな欠陥だろう。それに,材料として使われているのが,主として鮮度も落ちる80〜90年代のポップスで魅力に乏しい。もちろん,純粋に学習書として見れば,ためになる記述もいろいろあって勉強にはなるが。