英英和辞典

辞書には大きく分けて2言語辞書(bilingual dictionaries)と1言語辞書(monolingual dictionaries)がある。日本での英語の辞書についていえば,前者が英和辞典で後者は英英辞典。英和辞典は日本語に頼ってしまうという欠点があり,頭を英語の回路に慣らすために英英辞典のほうを薦める人も多いが,初級者には敷居が高いのも事実。そこで,辞書学のうちユーザー行動を研究する立場の人たちから「2言語化」辞書で英英辞典の欠点を克服しようという提案がなされている(bilingualised dictionaries あるいは semi-bilingual dictionaries という語が使われているが,この呼称で固定したものではないかもしれない)。これは外国語の単語に対する母語の‘訳語’が並ぶ2言語辞書とは違い,1言語辞書に載っている単語の‘定義’および例文なども原文(外国語)と母語の訳の両方を示したもの。

旺文社の『シニア英英辞典』(ISBN:4010711256)というのがあったが,Z会から出た『ワードパワー英英和辞典』(ISBN:4939149587)が近年のこうした研究動向を反映した日本で初めての本格的な試みといえる。オックスフォード大学出版局の学習用英英辞典 Oxford Wordpower Dictionary を2言語化したもの。2002年3月の発刊。

ロングマンが同じようなコンセプトの辞書を出すといううわさもあったものの,類書は出ていなかったが,2003年の11月ごろに,小学館から "Cambridge Learner's Dictionary"(ISBN:0521663660)を2言語化したものが出るらしい。A5判変型,960p,2色刷、CD-ROM 1枚付,本体3800円。監修:投野由紀夫先生 http://leo.meikai.ac.jp/~tono/ (明海大)。

『ワードパワー』の場合は定義文にも訳語をつけていたが,この辞書は日本語は最小限だとのこと。

『ワードパワー』は見出し語37,000語,"Cambridge Learner's Dictionary" は見出し語35,000語という規模。この規模では,英語の文章を読んでいて出てきた知らない語を引いても載っていない可能性が高い。「すでに知っているつもり」の語に対する理解を深めるために読むというのが効果的な使い方。使用にあたって適切な指導が必要であり,かつそれが難しいのだが,辞書の使い方を解説した本も最近は増えてきているので,大人が再入門のために使う場合はそんなに戸惑わないかもしれない。

以上2冊の英英和辞典はいずれも学習用,それも今のマーケットで主流になっている中級用(具体的には OALD, LDOCE, COBUILD レベル)よりも初学者向けのものだが,今後この形態の辞書が広まっていく可能性はあるだろうか。
ほかの言語での semi-bilingual dictionary としては,フィンランドCOBUILD 系のやはり学習用辞書が2言語化された例がある。たしかに中級レベルの学習用1言語辞書は,原文のままで理解できる/理解したい層が手に取るものだろうから,2言語化するメリットは薄いように思われる。それに辞書の規模からしても,単純に制作が大変なので日本の出版社としても手を出しにくいという面もあるだろう。英英辞典は付属の CD-ROM が充実してきたから,その中に入れてしまう方法も考えられるけれど。
ネイティブ向けの1言語辞書を2言語化してしまうのはどうだろう。クローズド・キャプションのDVDみたいに学習用として使えるかも。定義文を読んでもまた意味がわからない単語が並んでいて,どんどん深みにはまっていく罠も,訳をつければ回避できる。これも冊子ではなく CD-ROM での付属サービスとして提供すればいいだろう。しかし制作の負荷は学習用中級辞典の比ではないな。