電子辞書

昨日ケンブリッジ英英和辞典(ISBN:4095100710)の現物を初めて目にして,「和」の部分があまりにも少なくてめまいがしそうになった。ほとんど親本"Cambridge Learner's Dictionary"(ISBN:0521663660)と同じで,訳語がちょろちょろっと(見出し語1つにつき1〜2個程度)付いているだけ。あと,コラムの中にも日本語の注記が少しある。「日本語は最小限」だとは聞いていたが,もう少しあってもよかったんじゃないだろうか。CD-ROM が付属して3700円というのはちょっと微妙な値段だけど,そのCD-ROMも実は親本のものをそのまま使ったものらしく,日本語は一切入っていない。箱は凝った作りだけど。
この程度でも読者は満足するなら,ほかの辞書でも「英英和辞典」がいろいろできそうだ。学習者向けより一般向けのものの中にも候補がいろいろあるに違いない。
そうなると,日本人の変な本物志向が働いて,英和辞典の売れ行きにさらに打撃が加わる可能性があるかも。講談社の中辞典なんかもう居場所がなくなってしまうだろう。

打撃として最大のものは電子辞書。冊子体なら1部売れると出版社に2000円ぐらい入る辞書があったとして,電子辞書にバンドルされたら1部(というか1台?)の売上に対して出版社に支払われるロイヤルティは100円ちょっとぐらいにしかならないと聞く(伝聞情報なので信頼してはいけませんが,桁は違わないはず)。したがって電子辞書単独で辞書制作なんてとてもじゃないができない。ではどうするか。コンテンツ入れ替え型の電子辞書が普及して,ソフト単体での販売が可能になれば,紙の辞書と同様のビジネスモデルが描けるが,そもそもコンテンツ入れ替え型のものはソニーが出していた「電子ブック」の形で一度すたれているし,現行モデルでシャープが出しているのがあるが,市場を席捲しているという話も聞かない。あとは,三省堂とカシオの協力で出る独自モデル http://www.sanseido-publ.co.jp/publ/ep/HS1000.html のような形に可能性はないだろうか。これはOEMのようなものに見える。このケースがどういう配分になっているのか知らないけど,出版社主導でロイヤルティがもう少し高い水準で保てる形態が今後開発されることに期待をかけたい。
ところが,価格競争という問題もある。電子辞書には(当然ながら)再販制が適用されない。発売当初の定価からあっという間に何万円単位で売値が下がっていく。本来長く売りつづけなければならない商品にこういう価格が付くのは問題というか。
上記の三省堂独自モデルは定価から大きく下げての販売はしにくいと思うが,英語辞書コンテンツのより強力なセイコーインスツルメンツの SR-T6700 のほうが現時点では安く入手できるわけで,どっちに転んでも辞書出版社が今まで遭遇したことのない難しい状況ではないか。

一方,最初に述べたセミ・バイリンガル辞書は,電子辞書に向いたコンテンツだ。「日本語訳が見えてしまうから,生徒が英英のよさを生かして使いこなすのは難しい」という批判はよく聞かれるが,電子辞書で和訳部分を最初は折りたたんで表示し,日本語を読みたければボタンを押すというワンクッションをおくようにすれば,理念に合った使い方が容易にできることになる。ただし,複数の辞書を搭載している現行の電子辞書は辞書間のジャンプができるから,こういった機能は擬似的にではあるが既に実現しているともいえる。擬似的なものではなく,完全に一対一対応したものが出てくればそれなりに有用ではあるだろう。