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英文法を知ってますか

渡部昇一著,文春新書 ISBN:4166603442
また渡部昇一の規範文法擁護の本かよ,と思ったらその通りだった。ただし,これは英語の文法を確立しようと努力した学者たちの列伝みたいなもの。帯には「立派な英文を『読み書き』するための唯一の王道」なんて書いてあるが,この本を読んでその王道を体得しようとしてはいけない。実はその王道を大体のところで理解していることを前提に書かれている。
ただしぼく個人としては,ほとんど知らなかったことばかりで,まあ参考にはなった。でもこういう本を必要としている人はどれくらいいるんだろう。新書というフォーマットで出す意味があるんだろうか。ここで取り上げられている学者たちの業績から,受験関係者にもなじみの深い日本の文法書,たとえば『ロイヤル英文法』ISBN:4010312785 や江川泰一郎『英文法解説』ISBN:4760820094 などへのつながりを示したりとかしてくれたら,英語教育を志す若者なんかにはありがたいんじゃないかと思うけど,著者にはそんなもの眼中にない。
あと,本としての作りが非常にゆるい。用語を示すときに「日本語(原語)」で原語にルビを振るとか,統一すればいいのに,原語を示さずに日本語に直接ルビを振っている箇所があったり,誤変換も少しあったりする。
最後の章で変形生成文法を厳しく批判していて,ピンカーの『言語を生み出す本能』(上 ISBN:4140017406,下 ISBN:4140017414)を偽善的だとして槍玉に挙げているが,あの本は渡部氏の言うような文脈で規範文法を批判してたっけ? どうも規範文法擁護の意識が強いあまりの過剰反応のような気がするのだが。あと,これは編集サイドの手落ちだと思うが,邦訳も出ているんだから,直訳と原題だけ『言語本能(The Language Instinct, New York: Morrow, 1944. 494 pp.)』と示すのはやめてほしい。ルール違反じゃない?