ソングブック

ニック・ホーンビィソングブック』(新潮文庫 ISBN:4102202153)最高。
出世作『ハイ・フィデリティ』は小説だったが,その主人公に対する共感を,これはエッセイなのでストレートに著者に向けることができる。レコード狂あるいはポップ・ミュージック好きなら,自分の音楽の趣味について恥ずかしいと感じていることやひそかに自負していることを,この英国の白人中年男性が見事に代弁してくれていることに感激することと思う。
といってぼくの場合,ここで取り上げられた曲の中には知らないものも多かったのだけど,昔CDをレンタルしてカセットに落とし,カセットを聴かなくなるとともに忘れていったポップグループの名前が不意に出てきて記憶がフラッシュバックしたりした。Danny Wilson とか。ファーストアルバム Meet Danny Wilson に入っていた A Girl I Used to Know が好きだったなあ。
それで曲自体に対する評価は,たぶん著者と読者で微妙に(あるいは大幅に)異なっていることがあるだろう。それくらい個人的なことを書いてあるのだが,そこがまたいい。

ぼくは年に二度ほど、過去数か月のあいだに気に入った新しい歌ばかりを集めた車内用のテープを作る。そして作りおえるたびに、もう次のテープは作れないんじゃないかと考える。でも、かならず次のテープは完成し、そのまた次が待ち遠しくてたまらなくなる。こういうテープがあと数百もあれば、人生は生きる価値のあるものになるはずだ。

ところで,カバー表4の解説には

そして今、自閉症の息子はすべての歌のすべての音を必死に吸収しようとしている

なんて書いてあるけど,そんな箇所あったかなあ。気に入らないテープはぐちゃぐちゃにしてしまうようなことは本文に書いてあったけど。[追記]「そんな箇所」はグレゴリー・アイザックスの「パフ」の章にあった。ただそこだけ取り上げるのはミスリーディングだと思う。