スティング

自伝。タイトルも『スティング』(原題は Broken Music だけど)。
主要な部分は,グラマースクールあたりから「ロクサーヌ」がそこそこの注目を集めて無事 A&M からアルバムを出すところまでの苦労物語。ダーク・ボガードみたいにこれから何冊も自伝を出していくのかなあ。
わりと淡白に振り返る。少年期の話はアラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』を思い出させてほのぼのした気持ちになるのはたぶんぼくの個人的な事情による。ポリス解散に至る経緯とか,解散とほとんど同時期だったという最初の結婚の破綻の原因といった,多くの読者が知りたいところはさらっと触れられているだけ。スチュワート・コープランドが作ったポリスに加入後,メンバーの中で最も音楽ビジネスの経験が浅いスティングが主導権を握るに至った事情についても,「作曲のキャリアは自分がいちばん長かった」と簡単に説明しているだけ。もっといろいろあったんだろうに。マイルス・デイビスとの出会い(You're Under Arrest の録音にフランス語のナレーションで参加)の場面は面白かったけど,マイルスのバンドから何人も引き抜いて激怒させたことについては一言もなし。
総体としては,スティングってやっぱり冷たい人なんだろうなあという印象がぬぐえなかった。
音楽的な成長のヒントみたいなのはあんまりなかったなあ。33回転のレコードを45回転で聴くと1オクターブ上がるからベースパートが聴き取れるとかいう話はそれほど珍しくないし,「成長期にこんなバンドに夢中になった」という話もビートルズぐらいだし。

それにしてもこの訳者は下手糞。つーか編集者が全然チェックできてないみたい。「テノール・サキソフォン」とか「ディジー・ギレスピー」とか,聞き慣れない言葉がポンポン出てくるし,スティングに「やるっきゃない」とか言わせるし。