シービスケット

シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説 (ヴィレッジブックス)

シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説 (ヴィレッジブックス)

一昨年邦訳が出て、映画にもなって注目を浴びたノンフィクションが文庫落ちしていたので、天皇賞の前に買った。うわさ通りおもしろかった。
1930年代の話で、ジョッキーたちの悲惨な生活には涙を誘われるし、馬上で騎手同士が鞭でたたきあったり足を引っ張ったりという荒々しさには目を見張る思い。今の日本ではこれほどのことはないだろうが、かつて岡部が「ボクもレース中に杉浦君を殴ってしまったことは反省している」とサンスポで書いたことがあるように、ある程度はそういう荒っぽい面も残っているのかもしれない。いやそれも二昔前ぐらいの話か。

いずれにしても、馬にも人にも死の影が濃く覆うので、ストーリー(じゃないんだけど)がいっそうスリリングに感じられる。

さて、文庫版あとがきで北上次郎が指摘しているように、シービスケットとそのライバルであるウォーアドミラルはともにマノウォーの血を引いているが、このサイアーラインは傍流である。

マンノウォーが属するマッチェム系は、インリアリティBMS(引用者注:brood mare sire つまり母の父のこと)としてアメリカ競馬にその血を残しているものの、傍系である点は否めない(中略)。つまり本書は、かつてアメリカの主流血脈でありながら、傍系となってしまった血統の、古き良き時代の話なのである。

と北上は書いているが、この人は競馬にはあまり詳しくないと見える。そもそもマッチェム系が「主流」であった時代はアメリカにもなかったはず。マノウォーやウォーアドミラルの時代に一時的に復興したというほうが正確だろう。また、インリアリティは母の父としてのみ影響力を保ったというわけではない。ノウンファクトという後継種牡馬もいたし、このあたりまではサイアーラインもそこそこの命脈を保っていたのではないか。なお、日本の種牡馬リアルシャダイの母の父がこのインリアリティなので、それと混同したのかもしれない。

日本では、マークオブディスティンクションやウォーニングといった輸入種牡馬がけっこう活躍している。また、宮本輝の「優駿」の主人公になった馬(オラシオン)は、ゴドルフィンアラビアンの末裔という設定なので、シービスケットと同系といえる。やっぱり、不屈の精神で復活みたいなのは受けるのかね。