手紙、栞を添えて

手紙、栞を添えて (朝日文庫)

手紙、栞を添えて (朝日文庫)

朝日新聞の日曜版で1997年ぐらいに連載されていた,辻邦生水村美苗の往復書簡。文学作品について語り合う。
一時期,辻邦生が病気で休載されていた時期があって,そのときに水村美苗が病院に見舞いに行ったけれど,手紙だけでのやり取りを貫きたいからという理由で結局会わなかったという,ちょっとした事件があったのは記憶に鮮明に残っている。
いつものように人間と芸術に高い信頼を置いた辻邦生節が手紙だとよりストレートに出ているが,やっぱり同時代人という感じはしない,こういう感想をもたれるのは二人とも不本意だと思うけど。
あと水村美苗さんという人はすごくかわいらしいんだな。辻氏も「水村さんがエプロン姿で台所に立っている姿を想像してときめきました」みたいなことを書いていた。そのあたりのエピソードもそうだけど,ちょっと前にやはり朝日新聞日曜版の読書欄に「旧著再読」とかいうシリーズがあって,そこで『続 明暗 (新潮文庫)』を挙げていたときにもそう感じた。その記事をきっかけに版元品切れ状態から復刊されたのだが,「ずっと夏目漱石の『明暗』と一緒に生きつづけるものと思って何の疑いももっていなかったのに,絶版だと知って放心状態になった」みたいなことを書いていたのだ。男がそういうことを書くとただの身の程知らずと思われるだけだが,女性が書くとああかわいいなと思ってしまう。実は岩井克人夫人。
それはそうと,この本の中で辻氏が(珍しく?)ヘンリー・ミラーの作品を挙げていたのに,水村氏は華麗にスルーしていたのが少し残念だった。