理想の教室

細見和之『ポップミュージックで社会科』。タイトルからは射程が広いものを想像するが,取り上げられているのはジョーン・バエズ他「ドナドナ」,トム・ジョーンズや森山良子などが歌った「思い出のグリーングラス」,ジャニス・イアン "Society's Child", ボブ・ディラン「ハリケーン」,友部正人中島みゆきといった人たち。かなりフォーク寄りのセレクトで,音楽と結びつけて解説される事柄も,ホロコースト,公民権運動,あさま山荘事件,ペルーの日本公使館人質事件といったところで,「社会科」というよりは現代史の方が適当かと思う。
授業の講義録のような体裁だが,実際には大学生および小学校の保護者を対象に行った授業を再構成したもの。

ポップミュージックで社会科 (理想の教室)

ポップミュージックで社会科 (理想の教室)

「ドナドナ」は強制収容所に連れて行かれるユダヤ人のことを歌ったものだという話は非常に印象的だ。ただし作られた年代から考えて,1940年代のナチによる虐殺ではなくて,ロシアでのポグロムの記憶を強く反映しているものらしい,というのが一応の結論である。実はこの話は前に読んで知っていた。小岸昭『マラーノの系譜』ISBN:4622033666『離散するユダヤ人』ISBN:400430489X(または両方)だ。「ドナ」は「アドナイ」(ヘブライ語で「主」)のことではないか,とある勉強会の席で小岸氏が思いついて発言したのだそうだ。この説は検証の結果否定されるのだが,実際そういう連想が働くであろうことまでは否定されていない。ところで小岸氏の著書には細見氏の名前が挙げられていたのに,この本の「読書案内」では小岸氏の著書が紹介されていない。何かあったんだろうか。

「ポップミュージックで〜」という方法論は,人文科学・社会科学の分野では広く応用できそうに思う。どちらかというと‘〜’(学習の対象)よりは歌に対する理解の方がより深まりそうだが。