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アメリカン・スタディーズ

みすず書房が出している「理想の教室」シリーズの巽孝之『『白鯨』 アメリカン・スタディーズ』を読了。「アメリカン・スタディーズ」って、「カルチュラル・スタディーズ」に倣った用語なのかな。別に「アメリカ研究」でいいじゃないかと思うが、特にこの用語に対する言及はなかった。
著者による試訳(第1章・第135章・エピローグ)と、3回の講義(「世界はクジラで廻っていた」「恋に落ちたエイハブ船長」「核の文学、文学の核」)からなる。どれもそれなりにおもしろかった。とくに第2回、「恋に落ちたエイハブ船長」はちょっとミスリーディングな題名かと思うが、世間に広く流布している『白鯨』のラストはエイハブ船長とモビーディックとの壮絶な戦いだけど、それは1956年の映画(ジョン・ヒューストン監督、レイ・ブラッドベリ脚本)によって作られたもので原作とは違う、そして映画で存在を抹殺された拝火教徒フェダラーが911後の世界という視点からは重要であるという主張。ほかにもいろんな作品を援用して『白鯨』の予言的な性格を指摘していてなかなか刺激的。考察というより示唆だね。学生諸君、ここからは自分で考えたまえ、という。まあ「理想の教室」と呼ぶほどのものかどうかはちょっと疑問だが。

個人的には、「1850年の妥協(奴隷制の緩和と取締強化の併存)」とアメリカン・ルネッサンスの関係を指摘したくだりが参考になった。

この1850年の政治的妥協とキリスト教への懐疑は切っても切り離せません。だからこそアメリカン・ルネッサンスの作家たちは、ピューリタニズム批判としての超越主義に共鳴し、キリスト教以外の宗教思想にも深い関心を示して、美学的曖昧性や両義性を強調するレトリックを洗練させていったのです。(p.80, 原文は年号を漢数字で表記)

ただちょっとこの周辺で誤変換が複数箇所にあって目立つんだよな。みすずも校正あまいのかしらん。そういやデビッド・クリスタルの『地球語としての英語』なんて前科もある。

『白鯨』アメリカン・スタディーズ (理想の教室)

『白鯨』アメリカン・スタディーズ (理想の教室)