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presidential hopeful

アメリカ大統領選挙の報道で候補者のことをよく presidential hopeful と呼ぶ。hopeful には形容詞のほかに名詞としての用法もあって、「前途有望な人」などといった意味になるが、候補者に対してそういう前向きな言葉を使うところがなんとなくアメリカらしい感じがしてけっこう好きだ。

このフレーズに気づいたのは2008年の選挙戦の時だったろうか。

今日、トランプ氏に関するニュースを読んでいたら彼のことを presidential nominee と呼んでいて、そういえば今回の選挙戦では presidential hopeful という言い方をあまり聞かないような気がすることに気づいた。もちろん、大統領選挙候補者を表す言葉はこの二つだけではなくて、たとえば presidential candidate などと呼んでも全然かまわないわけで、自分の好みの呼び方が現れないからといって文句を言いたいわけではない。一つの文章の中で同じ人を指す言葉が複数種類使われることも珍しくない(というか、単一の呼び方で押し通すことのほうがまれ)から、いろいろな呼び方を見かけることになるわけだが、記事の書き手たちが今回の候補者に対してなんとなく hopeful という語を使いたくない気持ちを抱いていたとしても全然驚けない。

そう思って、presidential hopefulという連語が報道でどれくらい使われているか調べてみた。といっても厳密な調査ではなく、自分が無料購読している英米の報道機関のEメールによるニューズレターを検索してみて手でざっと数えただけなのだが。

presidential hopefulだけではなくて、White House hopefulのような言い換えや、GOP hopefulのようにpresidentialという語は出てこないが大統領選の候補者を指すことが文脈から明らかな場合は数えたが、presidential hopefulがベネズエラや台湾の大統領選挙あるいは自民党総裁選挙の候補者を指す場合は除外した。

まずわかったのは、前回の選挙戦つまり2012年の大統領選挙に先立つ期間には、この言い回しが用いられた例は極端に少なかった。このときは現職のオバマ大統領に新人が挑む形だったから、民主党内の指名をめぐる動きの中でも、共和党候補との争いでも、hopeful という単語は新人の側にしか使えないので、そちらのほうが前途有望である(すなわち選出される可能性が高い)かのような言い方はしづらいのではないか。

2008年の選挙のときは、前年の7月ぐらいから各候補が政策を発表したりして選挙報道が始まっていた。手元の資料で (presidential) hopeful を候補者に用いた例を含むニューズレターは全部で48通。うち、ロサンジェルス・タイムズが39通と圧倒的に多かった。ほかにニューヨーク・タイムズが5通など。ガーディアンなど、英国のメディアでも使われていた。

今回の選挙戦では、5月ぐらいから大統領選報道が始まっていたが、(presidential) hopeful の使用はこれまでのところ27通で絶対数は確かに減っている。ロサンジェルス・タイムズは2通に激減し、ニューヨーク・タイムズは11通とかなり増え、ほかにジャパンタイムズが9通で多いのが目立つ。ガーディアンなど英国メディアでも複数回使われていたのは2008年当時と同じである。

ロサンジェルス・タイムズでの (presidential) hopeful の使用が激減しているように見えるが、実は同紙のeメール・ニューズレターは数年前に発行形態が変わっていて、差出人が記者(?)の個人名義になり、内容も新聞紙面のダイジェストではなくてコメントをつけて記事を紹介するような形式になった。したがって、文章も個人のスタイルが強く反映されるようになっている。その差ではないかと思う。

なお、トランプ氏に関する記事で presidential hopeful という表現を用いた例も複数ある。ジャパンタイムズとガーディアンで、米国メディアではないのは気になるが、彼に対して hopeful を用いるのが忌避されていると断言するにはもう少し材料が必要だろう。

結局のところサンプル数が少なすぎるので、2008年と2016年の差は自分が受け取る媒体の変化とちゃんと目を通したかどうかの違いでしかない可能性もあり、今回のメディアの傾向として明確に結論が出たとはいえない。ちゃんと設計したコーパスで分析すればおもしろいかもしれない。

一つの傾向として、(presidential) hopeful という連語がメディアに登場する時期は意外に早いということは言えるかもしれない。2008年の選挙戦報道は上述の通り2007年7月から始まっているが、2007年中の6か月に現れたのが33通だったのに対して、2008年の7か月(まったく現れなかった月もあるので)には18通だった。7月か8月に党の全国大会で正式な候補者が決まるよりはるか前に使われる例のほうが多かったわけである。2015年は5月からの7か月で13通、2016年は8か月で14通。今年も3月までが多かった。これもきちんと分析すればおもしろいだろう。