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50代男性が健康と幸福を追求する日常をつづります

グランアレグリアとは仕事はできない

津村記久子さんという作家に対しては、吉村昭の配偶者と同じ名字で下の名前の字が1文字多い女性の作家という程度の認識しかありませんでした。2009年の第140回芥川賞を受賞した作家に対してはなはだ失礼な物言いをお許しください。

この4月に、未知の作家の小説を読んでみようと思い立って書店で手に取った何冊かの文庫本の中に『この世にたやすい仕事はない』(新潮文庫)があり、予断なく読み始めたら、なんか変わった味わいの本でした。タイトルの通り、仕事をする人が主人公の小説ですが、物語の中で起こる出来事はそれほど突飛というわけではないけれどもやや常識から外れた部分があって、そんなことあるかな……あるかもしれないな……何かとんでもない事件が起こりそうな雰囲気だ……と思いながらすらすら読めてしまう。そして最後の第5話「大きな森の小屋での簡単なしごと」の途中あたりで、これはめちゃくちゃおもしろいかもしれない!と悟ったのでした。

その後、図書館で『ポースケ』(中央公論新社)を借りて読み、多彩な登場人物それぞれのリアリティに瞠目しつつ、随所にあふれ出るユーモアを楽しみ、温かな読後感につつまれてすっかりこの作家に魅了されたのでした。

そして安田記念にグランアレグリアが出走するのに合わせたわけではありませんが、『アレグリアとは仕事はできない』(筑摩書房)を今日読みました。数えてみたらこれで津村作品は13冊目になります。

ウェイン・ショーターの『アレグリア』を流しながらこれを読めばグランアレグリアを迎える準備は完璧!

……しかし。グランアレグリアは後方の馬群に位置し、直線でなかなか進路が開かず、最後は鋭く差してきましたがダノンキングリーの2着に敗退したのでした。位置取りがよくなかったのは、中2週というきついローテーションも影響していたのかもしれません。

これまで、グランアレグリアが出走したレースは、同馬を外して買えば勝たれ、馬券に入れれば負けるというパターンが多かったのですが、今回もその例に漏れませんでした。

結論:グランアレグリアとは仕事はできない。仕事じゃないって。

津村『アレグリアとは仕事はできない』は2つの中編から成り、表題作は初出時に「コピー機が憎い!!」というタイトルだったようです。その名の通り、職場のコピー機に翻弄される女性会社員が主人公で、コピー機が人格を明確に持ち始めるというSFっぽい展開かな……と思いながら読みました。このアレグリアというのがコピー機の名称なんですね。ただ、その推測が当たっているかどうかはこれから読む人のためにここでは明かしません。これまでに読んだ津村作品とは違って、苦い読後感が残りました。もう1作の「地下鉄の叙事詩」は通勤の満員電車が舞台で、こちらもそれ以上に人間の悪意が前面に押し出された作品で、やはりこれまでのイメージとちょっと違いました。

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アレグリアとは仕事はできない』と『つまらない住宅地のすべての家』

同作の前に、現時点での最新刊である『つまらない住宅地のすべての家』(双葉社)を読みました。こちらは女性の脱獄囚という存在が登場してストーリーの核になっていく作品で、不穏な空気がビンビン張りつめますが、意外と人間の悪意は感じません。津村記久子さんの作品に初めて触れる人には、こちらのほうがおすすめできるかな。このほか、前述の『この世にたやすい仕事はない』や、映画化されて9月に公開予定の『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)も初めて読むにはよさそう。

次は自転車競技を扱っているらしい『エヴリシング・フロウズ』を読みたいと思っています。