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自転車にまつわる本、おすすめと非おすすめ

例の世界的スポーツイベントも、いよいよ開幕まで10日ほどに迫ってきました。世間は全然盛り上がってません! 自分が物心ついてからはモスクワに次ぐぐらいかな……。無観客が決定しましたが、この段階でもまだ求人広告が出ているぐらい人手が足りてないわけで、どのみち観客を入れるのは無理だったでしょうね。

さて、最近読んだ自転車を扱った本のうち、よかったものとよくなかったものを紹介したいと思います。

まず、よくなかった2冊から。

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『自転車に乗って』。河出書房新社から出ている「アウトドアと文藝」というシリーズの1冊で、短いエッセイを主体に集めたアンソロジーです。自転車がテーマなら、疾走感、さわやかさ、心地よい疲労感、機械としての精妙さとかが描かれているんだなと予想して図書館で借りてみました。読み始めると、自転車を楽しく乗り回してたらジジイにぶつかったと因縁をつけられた、もう乗らないという話(角田光代)とか、老母が不釣り合いなスポーツ自転車を弟に譲られてしかもそれに乗ってるのを知って危ないのでママチャリに替えさせた話(群ようこ)とかが立て続けに登場。自転車にまつわる話を書いているからといって自転車好きだと思うなよ、といった趣でした。期待したほうが悪かった。ごめん。古い作品が多いのも自分には合わなかった。なお、羽田圭介しまなみ海道を走った話はちょっとうらやましいと思いました。

湊ナオ『イノセントツーリング』。日経小説大賞受賞第一作だそうです。主人公は予備校講師の女性。今は亡き大学時代からの親友の夫とその息子と一緒に、名古屋から南紀まで自転車で行くという話。そのツーリングに出かける必然はどこにあるのかというところが謎として物語をドライブするわけですが、肝心のそこの部分でもたもたした印象があり、謎が明かされても納得感が今一つ薄く、好きになれなかったな。 

さて、気を取り直して、よかった2冊を紹介します。どちらも電子書籍で読みました。

風間一輝『男たちは北へ』(早川書房)。東京から青森へ自転車で行こうとしている中年のフリーランスのデザイナーが、ある大きな陰謀に巻き込まれて追われながら青森を目指すという冒険小説。途中で出会う高校を中退した少年との交流や、追う側の人物との共感が芽生えるところなど、すごくいい。自転車で長距離を走るときの苦労の様子もリアルだし。ハードボイルド/冒険小説のある種の典型をなぞりながら、それにとどまらない魅力を発しているのは自転車という道具立てによるところが大きいように思います。隠れた傑作……と呼ぶのは失礼ですが。書かれたのは1980年代後半なので、冷戦末期の時代背景や人物の設定にのぞく新左翼運動からの流れといった時代の刻印は感じるので、その辺で好みは分かれるかもしれません。

熊谷達也エスケープ・トレイン』(光文社)。仙台を拠点にするプロの自転車ロードレースチームの若手が主人公。その成長物語です。主人公は自分が気づいてないだけで才能に恵まれている。ちょっと恵まれすぎじゃないかとも思いますが、ご都合主義的な不運に見舞われたりするところはなく、レースの模様が高い解像度で展開されます。チーム戦略も丁寧に描かれるので、今年スタートしたジャパンサイクルリーグを観戦するための予習テキストとしても、とてもいいと思います。これも隠れた傑作……と呼ぶのは失礼ですが。続編が出てもいいのでは。上で述べた自転車の疾走感、さわやかさ、心地よい疲労感、機械としての精妙さなどはこの作品で味わうことができました。