アマゾン

bk1の河野武氏が「翻訳になじめなかった」と書いた理由がわかった。『アマゾン・ドット・コム 成功の舞台裏』を訳したのは風工舎の星睦氏。割とどうでもいいようなこと(ファイブ・オクロック・シャドウ)とか、すでに常識になってるようなこと(クラック=薬物の一種)まで訳注を使って処理してるんだよね。たぶん熟達した人だったら説明的にうまく地の文に溶け込ませると思う。それに「懸垂分詞」に対する訳注が「分詞構文で、主文と複文の主語が異なっていること」と舌足らずなものになっているところもいただけない。あと「カンペ」とか、くだけすぎた訳語もところどころで目立っていた。地の文の誤植はあまり見つけてないが、p.244 に出てくる「トミ・モリソン」とは、「トニ・モリスン」のことだろう。
原著者ジェームズ・マーカス氏はアマゾンでエディターを務めたライター。「文芸評論家」というのとはちょっと違うけど、専門は文芸/文学。アマゾンの初期にはそういう人たちが書いた書評の存在がけっこう大きかったが、会社が成長していく過程で彼らは切り捨てられていった。でもこの人はまだうまくやったというかしぶとく残っていたほうで、ちゃんとストックオプションが発効する5年間在籍したのだからあっぱれ。
id:zokkon:20050611 で触れたアマゾン・ジャパンの立ち上げ記録『アマゾンの秘密』ISBN:4478312141、著者の松本晃一氏はカスタマーレビューが人気の秘密であると喝破して、それを日本版にも用意すべくがんばったわけだが、米国の本家ではカスタマーレビューの導入以前にエディターレビューが大きな役割を担っていたわけである。bk1はそういうところを見習ったのかなという感じもする。アマゾンでマーカス氏も最後までそうしたコンテンツの存在意義を認めさせようと奮闘した様が描かれていて、それなりの成果も上がったようだが、結局のところ会社が利益を上げられるようになるにあたっての貢献はそれほど大きくなかったようだ。なんとなく、Wikipedia 草創期の編集者で専門家の学識を重視した Larry Sanger のことを連想した。