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『アメリカン・ユートピア』と自転車

デイヴィッド・バーンがブロードウェイの劇場で行ったライヴをスパイク・リーが監督して映画化した『アメリカン・ユートピア』を見ました。異例のロングランですが、新宿のシネマカリテでの上映がもうすぐ終わるというタイミングで、勤めを早めに上がって見てきました。いやー、実に良かった!f:id:zokkon:20210918233641j:image

デイヴィッド・バーンの歌声はあまり好きじゃないと思っていて、トーキング・ヘッズ時代も含めてこれまであまり熱心に聴いてきませんでした。
(お前の好きなロキシー・ミュージック/ブライアン・フェリーも似たようなものじゃないか、と言われればそうですが。何が違うんだろう。そういえば亡き今野雄二はフェリーを語るときによくバーンのことを引き合いに出して、フェリーさんのほうがまだまだ上だぞ、みたいなことをほのめかしていたような。)

初めて本格的に触れたデイヴィッド・バーンのパフォーマンスは、舞台装置がとにかくシンプル。大所帯のバンドはそろいのライトグレーのスーツを着て、楽器もすべてケーブルを使わず無線でつながり、踊りながら歌い、演奏します。

演奏されるのは、バーンの最新作アメリカン・ユートピアからの曲に加えて、旧作やトーキング・ヘッズ時代の僕でも知っているヒット曲など。BlackLivesMatterに呼応するように、ジャネール・モネイ Hell You Talmbout のカヴァーも。白人警官による暴力で亡くなった黒人の被害者の名前をアフリカンビートに乗せて次々に挙げていく、非常に印象的な歌です。

歌に込めたメッセージもバーンのMCも明快に筋が通っていて、社会的公正の実現を目指そうという点で一貫していました。その土台になっているのは楽観性だと思います。デイヴィッド・バーンの音楽自体も、今思えばそういうところがあって、その辺がイギリス勢との最大の違いのような気がしてきました(バーンはスコットランド人ですが、カナダを経て今はアメリカの市民権を持っているそうです)。

その楽観性がよく現れていたのが、映画のラスト、バンドメンバー(のほかにスタッフも含むのかな?)みんなで自転車に乗ってニューヨークの街路を走ってから会場入りするシーンだと思いました。そうやって軽やかに会場に来たからこそ、こういういい演奏ができたのだという種明かしだったのではないかと。

デイヴィッド・バーンと自転車の関係で言えば、2009年にフェイバー&フェイバーから Bicycle Diaries という本も出しています。昔から自転車が好きで、ツアーに行った先でも積極的に自転車で移動していたようです。ベルリン、イスタンブールブエノスアイレス、ロンドンなど世界各地で遭遇した人や事物、そこで深めた思索などが綴られていて楽しく読めます。ここで書かれている内容も、人間らしい生活を追求することに関する問題意識が素直に表明されていて、『アメリカン・ユートピア』へとストレートにつながっているのがわかります。邦訳が出れば読みたい人は多いでしょう。

改めて自転車が欲しくなりました(結局それかよ)。

なお、新宿シネマカリテでも9月23日(木)までの続映が決定しているほか、渋谷のホワイトシネクイントや吉祥寺オデオンなどでもまだ観賞可能。9月17日から26日にかけて京都で開催される「boid sound 映画祭〈音楽映画特集〉」というイベントでも上映されます。まだ見てない方はぜひ! そのほかの地方でも、新潟県上越市の高田世界館という日本最古級の映画館など、この映画を上映する映画館を一覧するだけでも興味をかきたてられます。

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