今度は『ロンリー・ハーツ・キラー』。『アルカロイド・ラヴァーズ』よりはるかにわかりやすかった。天皇制,NEET,ネットで流通する悪意,マスゴミ……といった現代社会のいやな部分をぐさぐさとえぐりとってみせた快作だ。さらには Musical Baton の流行を予見してみせたようなところまである(予見したところで,だからなんなんだと思う人が大半だと思うけど)。とくに,こんなふうに天皇制の現代における存立基盤に切り込んだ小説なんて読んだことがなかったのですごく興奮してしまった。それだけに,ラストでの登場人物の一種の敗北はやるせないものがあった。
3部構成で,それぞれ語り手が変わる。第1部は食えてない(というより稼ぐ気があんまりなくて,働いたら負けかなと思ってるみたいな台詞が出てくる)若い映像作家が語る。その本人が,「島国」の空気を一変させるようなことをしてのけて物語が動いていくのだが,彼の名前が井上昭次という。親二人と同居していてほかに家族はいないようだけど,昭次という名前をつけたのなら,上に女の子か流産した子供でもいるんだろうなと思った。あと総理大臣になる男で岸輝次郎というのも出てくるんだけど,この人も次男ぽい名前を持っている。そういう設定の裏にある意図を深読みするのもおもしろいところなんだよね。でも図書館の返却期限が今日だったので明日には返さなきゃ。
(名前の話,仲俣さんは血盟団の井上日召をあからさまに想起させることを指摘している。それに付け加えるなら,主要登場人物の中でフルネームが確認できるのが4人,井上昭次・白木蓮(第3部の語り手)・小川沙良(=きさらぎ)・岸輝次郎であって,岸は重要な役割を持っているはずなのに割と遠景にしか現れないという点ももうちょっと分析してみたいところである。)
- 作者: 星野智幸
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/01
- メディア: 単行本
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[追記]諸事情により見落としていたが,id:solar さんは同書を2004年のナンバーワンに挙げていることが判明した。すまない。Invitation 誌に掲載された記事も公開されているので見てみてほしい。