「ランチタイムの経済学」

ランチタイムの経済学―日常生活の謎をやさしく解き明かす (日経ビジネス人文庫)

ランチタイムの経済学―日常生活の謎をやさしく解き明かす (日経ビジネス人文庫)

日常気になる話題の謎を、経済学的思考に基づいて説き明かしてみせた啓蒙書。
カバー表4に紹介されている例では、「シートベルト着用を義務化すると事故はかえって増える?」「映画館のポップコーンはなぜ高いのか」といったこと。常識や直感とは異なる結論に首をひねることもあるし、鮮やかな説明にうならされることもあった。
しかし、経済学的に単純化したモデルによる説明を読むだけでは、腑に落ちない点がいろいろあることも事実。単純化にあたって考えないこととした要素が、現実にはどれだけの影響力を持って作用しているのかわかりづらいことが多いし、時間の要素が往々にして省かれるのも実感と説明がかけはなれてしまう要因の一つだと思う。

たとえば、「第13章 統計で嘘をつく法」には、1980年代に貧富の差が拡大したというのは現実を反映しない統計の嘘である可能性が高いとしてある。原因として3つ挙げる。1つは減税の影響についての評価。

税率が下がると、人は所得隠しにそう熱心ではなくなる。それだけでも、富裕層の所得が上昇したかのように思える。

第1の要因としてこれを挙げているところからも眉に唾をつけて読むことになる。

第2の要因は、家庭の崩壊。「共稼ぎで5万ドル稼いでいた中流家庭は、離婚すると所得が半分の低所得世帯2つになってしまうのは統計の嘘だ」とする。しかし、この場合その事象に対する処理としてほかに方法があるだろうか。

第3の要因は、「年間所得の格差拡大は必ずしも生涯所得格差の拡大を意味しない」ということであるが、それはそうだとしても、「貧富の差が拡大する」って別に生涯なんて長いスパンで考えなくてもいいんじゃない?第2点についても思ったが、統計にミクロな要素が入っていないという批判は経済学的に正しいのか。

ほかに、税金は基本的に悪であるとする考え方や、環境保護は無駄であるとする主張など、大事な要素を落として論じているから、なかなか納得しがたい。たとえば、「森林を切り開いて駐車場にすることは環境保護論者によれば倫理的に許されないが、駐車できるようになるという便益があるからそうとは限らない」なんて暴論だよー。これには口あんぐりだった。

結局、どこからがこの人の属する流派の主張で、どこまでが経済学者全般に共有されている認識なのか、素人にはわかりづらいところが経済学の啓蒙書の弱点。こういう違和感を解消するには、黒木玄さんのように自分で最初から勉強するしかないだろうな。凡人には厳しい道だ。あるいは、相反する主張をともに収録して比較できるようにした書籍なら、ある程度は可能かもしれない。