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台詞ひとつに魂を感じた

前回、初期の佐野元春作品から感じたロックンロール魂について力説しました。かっこよさを感じたポイントは結局、言葉とそのリズムなんですよね。

それで思い出したのが、字面だけで想像していた英語の発音が、映画で台詞として発せられたのを聞いたら実際には何倍もかっこよかったという経験。

それは、1991年公開の『ザ・コミットメンツ』です。監督のアラン・パーカーは2020年7月31日に惜しくも亡くなりましたが、シリアスで重いテーマを多く手がけた社会派の名匠。本作は珍しく軽いタッチで楽しめる作品です。細部は覚えていないというか、ほんの一部の細部だけ突出して覚えているという感じなのですが、いつまでも忘れられない映画です。

以下、ネタバレを含みます。ほぼ記憶だけで書いているので、違っているところはあるかもしれません。

不況のアイルランド、ダブリンで主人公ジミーはバンドを結成することを思いつきます。普通なら、自分では楽器ができないとしても、「当方ヴォーカル。ギター、ベース、ドラム募集」なんて書いて楽器店に貼り出すと思うじゃないですか。ところがこの主人公が担当するのはマネージャー。ヴォーカルすらやらない。それで全メンバーを集めてしまう。しかも、3ピースとかじゃなくて、女声コーラス3人組とかホーンセクションまで含む、本格的なソウルレヴューができる編成の大所帯を集める。これでダブリンの街を席巻して大儲け、という算段なのです。起業家精神にあふれてますね。

そのバンドの名前が「ザ・コミットメンツ」。実在するようでしない、絶妙な選択ですよね。そしてメンバーに対してバンド名の由来とかいちいち説明しない(…と思ったのですが実は一言ぐらい説明したかも。その辺の記憶は曖昧)。そのあたりもかっこいい。

集めたメンバーの中に、経験豊富なトランペット奏者がいて、実際に年齢もかなりいっているのですが、素行に難ある人。この人の指導のもとにバンドは曲折ありながら技能を向上させ(この辺の描写も楽しい)、いよいよライヴに臨む。

その最初のライヴの場面で、マネージャーのジミーはMCも担当します。なるほど、バンドのマネージャーというのはそういう役割もあるのか、と思ったところで、この映画最高の台詞が発せられるのです。

The Commitments!

単なるバンド名ですが。commitmentsの最初の母音はあくまで軽く、発音記号ではシュワー/ə/で表される音ですが後続する子音mの前に少しタメがあり、iは日本語のイとエの中間ぐらい、続くtはほとんど聞こえず、最後の母音はやはりシュワーで最後の子音tsはあくまで鋭く明瞭に発音する。このリズム感がめちゃくちゃかっこいいんですよ!

たぶん母語としてふだんから英語を話している人にとっては少し大げさなぐらいで日常会話での発音と大きな違いはないのだろうと思いますが、しびれました。楽器を演奏するわけでもない、言ってみればただのマネージャーでもこんなにかっこよく音楽的に発話するんだ、という感想で、30年ぐらい経った今でも忘れられません。

バンドやろうぜ、ってなったときに大所帯のソウルバンドを組むという発想は、日本人にはないなあと当時無邪気に思ったのですが、考えてみればアイルランドでも珍しい発想かもしれません。なんといってもフィクションですからね(原作はロディ・ドイルの小説『おれたち、ザ・コミットメンツ』)。アイルランド人はアフリカ系アメリカ人に対して、自分たちと同様に虐げられた人々として共感を覚えているからソウルミュージックが好きなんだ、という言説も、当時なるほどと思いましたし、同様な主張はほかでも読んだことがあるような気がします。しかしこれもロディ・ドイルの着想した虚構かもしれない。

さすがに実話とは思ってなかったものの、似たような話はアイルランドイングランドで実際にあったに違いないと信じていました。そういったリアリティを支えたのが、出演者たちが実際に演奏したサウンドトラックであり、自分にとっては主人公のあの台詞だったのだと思います。

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