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奇想コレクション

シオドア・スタージョン『輝く断片』を買ったのは、丸善本店で買ってほしそうな顔をして平積みになっていたから。この人の作品を読むのはこれが初めて。先日 Book Baton でこの本を挙げたら、キーワードとISBNからたくさん人が来ていて、スタージョンの人気に驚いた。

輝く断片 (奇想コレクション)

輝く断片 (奇想コレクション)

まさに「奇想」と呼ぶにふさわしい短編が並ぶ。獣のような顔をした男がよく登場するが、いつもトム・ウェイツの顔を当てはめてしまう。あるいは映画『ロスト・チルドレン』に出てきた人(この人もトム・ウェイツ似なので結局いっしょ)。
後の方ほどおもしろくなる。
「マエストロを殺せ」Die, Maestro, Die が印象に残った。一人称の主人公は、ジャズのビッグバンドのMCを務める「キモメン(解説での大森望の用語。こんな流行語使って大丈夫か)」で、バンドリーダーのクラリネット奏者(マエストロとはこの人物のことだがあだ名というわけではない)に嫉妬して……という話。この2人に加え、後からバンドに参加する美少女ピアニスト、バンドの重鎮のドラマーなど、人物造型に格段の説得力がある。本書に収録されているほかの短編と比べても格段にリアル。特定のモデルがいるわけではないと思うけど、強いて言えばカウント・ベイシー楽団かなあ。実はこの名前を挙げるだけでもわかる人にはネタバレになってしまうのだが、わかる人もそんなにいないか。
なお、この短編は柳下毅一郎の訳。柳下さんも「ディジー・ギレスピー」と表記している。発音自体は辞書を見ると「ギレスピー」のほうが近いけど、慣用では「ガレスピー」なので気になってしまう。Gi の部分には強勢がないから「ガレスピー」と聞こえることがあってもおかしくないとは思う。