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桐原書店のこと

一般的に、つまり教育あるいは出版業界で働いているわけではない人にとって、それほどニュースヴァリューのある話ではないかもしれないが、その筋の人には非常に大きな出来事が先週あったので記録しておく。

2017年10月30日、図書印刷株式会社(東証一部7913)が株式会社桐原書店の株式の51%を取得して子会社化することを発表した(IR資料PDF)。取得価額は12億円弱。会社四季報の2017年秋号で

【模索】編集・制作の印刷周辺や学校図書分野でM&A意向。

と書いてあったのは、こういう形でひとまず実現したわけだ。図書印刷学校図書株式会社をすでに傘下に収めており、上記のIR資料によると、新たにグループに加わる桐原書店との2社を統括する持株会社を100%子会社として設立する意向。桐原書店は参考書や教科書が主力、こちらは高等学校の英語と国語を手がけているのに対して、学校図書は小中学校向けの教科書が主力であり競合する部分は少なく、シナジー効果が見込めると判断したものだろう。

ここから先は確たる情報源を示すことができない情報も含まれるので、読む方は話半分で受け取っていただきたい。

桐原書店は2000年前後から経営危機に陥り、Wikipediaにも2001年に英ピアソンの傘下に入ったことが記されているが、実はその半年ほど前にZ会という教育産業の会社が出資したことがある。Z会の当時の社長は「いい会社が手に入った」と喜んだらしいが、すぐに外資にさらわれてしまったのである。検定教科書を発行することは、発行した経験のない会社にとってはそれなりのステータスに見えるのかもしれない。

ピアソンのもとでの出版活動を嫌う人たちは離脱して、いいずな書店を設立した。いいずな書店は桐原の主力商品とまともに競合する英語の参考書を出したりしたので、そのことも桐原の経営再建がうまく進まなかった一因になったかもしれない。2013年にピアソンは桐原の経営から手を引くことを決め、マネジメント・バイアウトによって独立させることにした。株式は新経営陣に格安で売り渡したとされていて、その金の動き(あるいは契約の中身)は不透明だが、今のところ部外者には確認のしようがない。

MBOによる独立後も桐原の経営陣は会社売却を模索していて、2015年には資格試験対策などを手がけるTAC(東証一部4319)への全事業譲渡を発表した。その際に従業員はいったん全員が解雇されて改めてTACの入社試験を受けることとされ、結果的に労働組合の幹部を全員落とすという露骨な採用差別も行われた。ピアソン傘下の時代から労使関係は良好ではなかったのだがまだ引きずっていたのだ。組合に同情的な著者らが新会社への出版権の移転を拒否したこともあり、結局この事業譲渡自体が中止された。

それから2年経ってこの発表。これまで桐原の上を通り過ぎてきた会社に比べると、はるかにマシな会社が登場したという印象である。従業員にとっても現経営陣にとっても望ましい結果ではないだろうか。労使関係が正常化して経営再建がうまくいけば、安定した永続的な関係になるだろう。そうなることを期待したい。