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プログレッシブ英和中辞典第5版

入手してから1か月足らず、そんなに引き込んだわけでもないけど、新刊の小学館『プログレッシブ英和中辞典』第5版について記録しておこう。

紙面の美しさは前の版から比べると飛躍的に向上している。これなら普段から手元に置いて気になる単語をすぐに調べる気になれるはずだ。2色刷だったのをやめて単色にしたのもいいかもしれない。

この辞典の初版が出たのは1980年で、僕は高校に入ったときに親からもらった。2000ページぐらいあって重いのに通学でも持ち運んだものだ。大袈裟に言うと今日あるのはこの辞典のおかげかもしれない。大学に入ってからも使っていた。H教授から「これはなかなかいい辞書ですよ」と言われてちょっと誇らしかったものだ。今思うともっと大学生にふさわしい辞書もあるよ、という含意があったようにも思えるが。
そう、昔(30年ぐらい前)は高校生が使うような辞典というのもそれなりに選択肢はあったんだけど、今の中級クラス(6〜7万項目ぐらい)のが多くて、それだと物足りない人は中辞典つまり9万項目以上ぐらいの一般社会人向けのものを使うことが多かったのだ(と思う)。研究社の英和中辞典が一番有名で売れていたかな。小学館プログレッシブは、そのカテゴリーの中でも、文型を表示したり語法解説が詳しかったりして、学習者向けの要素が大きくて、それで人気があった。編集主幹の一人として、後に大修館書店から『ジーニアス英和辞典』を出す小西友七先生がいた。
その後、個人史的には英和辞典に再び本格的に触れるのは英語に関係する仕事に就いてからだが、その時は英和辞典としての最初の選択肢は『ジーニアス英和辞典』という時代になっていた。1990年代半ばのことだ。これは上級向けの学習辞典という位置づけであって、規模的には中辞典とそんなに変わらないのだが、より学習者向けに特化した内容になっている。そして、学校という安定した市場を手堅く押さえることで、売り上げの面では中辞典を凌駕し、そのうち市場から駆逐していった。

というわけで、前置きが長くなったが、もともと学習要素を色濃く持った中辞典として出発したプログレッシブ英和が、今回の改訂で「最強のビジネスツール」(帯の文句)と銘打って再出発したのだ。項目数は13万8千で、たしかにこれならビジネス用途にも十分そうだ。編集主幹は瀬戸賢一・投野由紀夫の両先生で、特に意味のまとまりを重視する瀬戸先生の主張が取り入れられて、自動詞と他動詞を分けないなど、いろいろ斬新な試みが取り入れられている。

ただ、ちょっと考え込んでしまうのも事実だ。そういった斬新な試みを学校市場向けに投入するのは大変な冒険であって、おそらくそれだけの営業体制を持っていない小学館としては、高校市場を直接攻めるような印象を与える「学習向け」的な姿勢は封印したのだろう。でも「意味の全体像をとらえる」なんてことは、一通りの英語学習を終えた一般社会人よりも、発展途上の学習者にとって大きな意味を持つのではないだろうか。

英和辞典の世界の現状は、一般社会人でも上級向け学習辞典を使わざるを得なくて(たとえば電子辞書でも入っている英和はほとんど『ジーニアス英和辞典』)、学習辞典に期待される範囲が大きくなりすぎていると感じられる。それは学習者にとってもあまり歓迎すべき事態ではないだろう。もともとの用途に対しては不要な項目で分厚くなり扱いづらくなった辞書を使って、学習効率は上がるのだろうか。そういう意味で、このプログレッシブ第5版が市場で受け入れられて中辞典というカテゴリーが復活し、上級向け学習辞典との棲み分けが進むとすれば喜ばしいことだ。しかし、そういう風に進むだろうかという懸念はあるし、そういった役割を負わせることは、この辞典の本来持っている特長にそれほど適合的ではないのではないかとも思う。

プログレッシブ英和中辞典〔第5版〕
瀬戸 賢一
4095102055