研究社の『英語青年』今月号(2006年8月号)は特集が2つで,その1つが「村上春樹のアメリカ」。まあ特集といっても論文4本だけなんだけど。
そしてその内容にも正直がっかり。川村湊と宮脇俊文両氏のはなんだか印象批評の域を出ないエッセイだった。最近この雑誌は,文学の精緻化とか科学化といった方向を目指し始めてるのかと思っていたけど,どうもこの2本を読むと一歩後退のような感じがした(批判してる当人が印象しか述べてないのはご愛嬌ということで)。
井上健氏の「作家=翻訳家村上春樹の出発--1979-1982」が一番よかった。訳文の丁寧な比較があるし。チャンドラーを今度訳すことについて何も触れられていないのは致し方ないところか。
もう1本は,『戦後日本のジャズ文化』isbn:4791762010イク・モラスキー氏による「“Beyond Category”--ジャズ、戦後日本、そして村上春樹」。これは,村上春樹の音楽の嗜好は一般に思われているように白人のウェストコーストジャズだけじゃないよということを丁寧に論証したものだが,『意味がなければスイングはない』isbn:4163676007っては何を今さらという感じの内容かもしれない。
というわけで,英文学プロパーの人たちにとって村上春樹はどういう存在なのか今ひとつわからなかったのであった。それに,今この時点で村上春樹を扱うなら,訳された村上春樹という視点の論考があってもよかったのにな,と思う。